小さなお話をひとつ

●こんなものを

書いてみました・・・(笑)。

よろしかったら、読んでやってください。

(タイトル未定)








昨夜の香藤は、珍しく酔っていた。

いつもの連ドラ収録の後、そのままスタッフと忘年会だと聞いていたので、飲んでくるのは知っていた。

この時期それはよくあることだし、俺にいちいち言い置かずに遅くなることも少なくない。

どうしてもすれ違いが増えるので、まったく寂しくないと言えば嘘になるが、それはお互い様だろう。

俺だって年末年始は、家を空けることが増えるのだ。

この業界にいる以上、そういうものだ―――と思っている。

だから特に何とも思わず、俺はさっさと寝室に引き上げた。

静かな冬の夜。

ベッドで読書にふけり、そのまま寝てしまったのだと思う。

―――香藤の気配に起こされるまでは。





昨夜の香藤は、かなり酔っていたと思う。

泥酔と呼んでもいいほどの、めったいない深酒。

気のせい・・・ではないと思う。

もともと香藤の酒は、完全なコミュニケーション・ツールだ。

仲間たちとわいわい、賑やかに騒ぐための酒。

周囲も自分も楽しくなければ意味がないので、あまり無茶な飲み方はしない。

決して弱くはないが、独りで飲むことは殆どないし、酔って我を忘れることを嫌う。

おそらく、本質的にアルコールが好きなタイプではないのだろう。

(俺はその正反対で、酒にはめっぽう強いが、どちらかといえば日本酒を独りでやるほうが好きだ。)

そういう香藤だから、仕事仲間との飲み会で酒を過ごすというのは、ちょっと考えにくい。

共演者や撮影スタッフに迷惑をかけたり、羽目を外して呆れられたりするのを、あいつはとても嫌がるからだ。

そんな香藤が、どうして・・・?





バタン、と無造作に寝室のドアが開いた。

「・・・香藤?」

浅い眠りから覚めて、俺は薄暗がりで目をこらした。

「おかえり―――今、何時だ」

「ふう・・・」

開いたままのドアから、廊下の灯りが差し込んでいた。

壁にもたれかかったまま、香藤が大きく息を吐いた。

俺の問いに答えず、そのままじっと動かない。

「かと・・・?」

むくりと上半身を起こして、俺は小さな違和感に気づいた。

ただいま、の言葉がない。

心なしか、しんどそうに肩で息をしているように見える。

―――だいいち、いつもの香藤なら。

深夜に帰宅するのに大きな物音を立てて、寝ている俺を起こすような真似はしない。

「どうした、香藤?」

「んー」

俺は首を傾げながら、掛け布団から抜け出した。

パジャマに裸足のまま、ドアから動かない香藤に近づく。

『ダメだよ岩城さん、風邪ひいちゃうじゃない!』

―――いつもの香藤なら、そんなリアクションが返ってくるはずなのだが。

「大丈夫か、おまえ」

手探りで部屋の灯りをつけて、俺は香藤の顔をまじまじと見た。

「あー・・・いわきしゃんだー・・・」

かすれた、甘えるような呟き。

はっきりとした酒のにおい。

「どうしたんだ、おまえ?」

「たらいまー」

きれいな茶色の瞳がうるんでいた。

眦(まなじり)も頬も、子供みたいにぽおっと赤い。

「香藤、おい」

「うにゃー」

俺はそっと、香藤の額に手のひらを当てた。

「熱・・・があるのか?」

「ないもん。ないよー」

ふにゃりと笑って、香藤がぶんぶんと左右に首を振った。

まるで小学生の子供みたいな、幼い仕草だ。

「いわ・・・きしゃん・・・」

だいすき、とうわごとのように呟きながら。

香藤は緩慢な仕草で腕を差し伸ばし、ぐっと俺を抱き寄せた。

吐息が近い。

そして、熱い。

「こら、おまえ・・・」

―――酔ってるのか、珍しいな。

俺は苦笑して、迫ってきたキスを避けた。

「あー、ひろい・・・」

「どんだけ酔ってるんだ、おまえ」

「うー・・・酔ってないもーん」

いい歳をした男が、イヤイヤと首を振る。

「わかった。いいから、そのダウンを脱げ。それから手洗いとうがいだ」

噛んで含めるようにゆっくりそう指示すると、香藤は上目づかいで唇を尖らせた。

ぽおっと赤い顔に、焦点の定まらない視線。

―――本当に、珍しいこともあるもんだ。

俺はなだめるように、香藤の二の腕をポンポンと叩いた。

「とにかく、洗面所に行って来い」

「ぶー」

―――幼児か、まったく。

俺は香藤の腕からダウンジャケットの袖を抜き取り、その背中を廊下に押しやった。

ふと時計を見ると、午前三時半。

「なにやってんだ・・・」

ため息をつく反面、母親のように世話を焼くのが楽しくもあって、俺はひそかに苦笑した。

俺がガウンを羽織り、エアコンのスイッチを入れたところで、ようやく香藤が戻って来た。

「ちべた・・・」

酔いざましに顔を洗ったのだろう、長い前髪が濡れている。

「香藤、歯は―――」

俺にそれ以上は言わせず、香藤のキスが降って来た。

「んん・・・」

やっとこれが、ただいまのキス。

満足そうに顔をあげると、香藤がほわりと笑った。

「もっとー」

「だめだ」

俺は酔っぱらいを剥がそうとしたが、香藤の両腕が俺の上半身に、意外なほどの力で絡みついている。

「こら、重たいぞ」

香藤が耳元であくびをした。

みっしり筋肉のついた重たい身体が、俺にのしかかる。

「ふにゃあ・・・」

「・・・ったく」

俺は介抱するように香藤を抱きかかえ、なんとかベッドまで辿り着いた。

ベッドカバーの上にふたりで倒れ込むと、香藤がくすくすと笑いだした。

その笑顔も、まるで子供だ。

―――この、酔っぱらい。

「なにが、おかしいんだ?」

先端の濡れた香藤の髪をかきあげて聞くと、おもむろに真剣なまなざしが返って来る。

「おれ、ね―――」

「うん?」

「いわきしゃん、すきー」

「・・・そうか」

なんだか脱力して、俺は半ば香藤の下敷きになったまま、酔っ払った男の頭を撫でた。



(↓折りたたみ↓につづく)


【15/12/2011 22:49】 春を抱いていた | Comments (0)
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プロフィール

藤乃めい

Author:藤乃めい
ロンドン在住の自称☆ヘタレ甘々ほもえろ字書き(兼エッセイ&レビュー書き)。別名=ましゅまろんどん。

2008年秋より、出向で六本木に島流し中。

純愛☆官能大河ドラマ『春を抱いていた』をこよなく、果てしなく愛してます(笑)。岩城さん至上主義。寝ても醒めても岩城京介氏のことしか考えられず、日常生活に支障が出ることもしばしば(爆)。・・・いや、マジで。

常に人生破綻の危機に怯えつつ、今日も愛の溢れる純文学☆ほもえろ道の探求に精進してます(笑)。

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