●クリスマス
ですものね・・・♪

いや、うちなんか今晩、ラーメンでしたけどね(爆)。
まあ、それはさておき。
●どういうわけか
人気があるようです。
今現在、サイトで(再)連載中のぽよよん岩城さん。
ありがたいことです。
天才なのに、恋愛に関しては精神年齢12歳くらいという、アリエナイおじさん。
乙女度120%で、目眩がします。
でも、なぜかそこが愛おしい・・・(笑)。
で、です。
今、サイトにアップしている回。
一応(うれし恥ずかし初めての)クリスマス編なのですが、実はあれ、尻切れトンボに終わってるのですね(汗)。
当時、続きを書く頃にはとっくに1月になっていて、
「今さら、クリスマスってのもなあ・・・」
という気がして、クリスマスねたをすっ飛ばして春になってるのですね。
(連載が尻切れトンボ、という意味ではありません。)
それはそれで、お話はちゃんと進んで行くのですが、なんかさみしい。
せっかくのクリスマスなので、頑張ってみました。
なんと? 幻のクリスマス編・・・の続きです。
書き下ろし。
・・・っていうか、何だろう(笑)。
およそ4年ぶりの、「ぽよよん」新作ってことになります。
☆習作☆
ですが、楽しんでいただければ幸いです。
※前編。
Pennies from Heaven 2013
番外編 (前)
「あー、もう!!」
香藤洋二はくしゃくしゃと派手に髪をかきむしった。
「なんだって・・・最悪だよ! もう、人生最大の汚点!!」
よほど憤慨しているのだろう。
周囲の視線を気にすることも忘れて、地団駄を踏んでいる。
「俺のバカ! バカだろ、マジで・・・!」
怒鳴るというよりは、むなしく天に吠えるように。
香藤はイライラと首を振った。
「かとう・・・」
岩城京介はただ呆然と、若い恋人を見つめていた。
+++++
クリスマス・イブの月曜日。
岩城は朝六時すぎに、早々と研究室に姿を現した。
史上最も早い出勤である。
正門はまだ閉ざされている時刻なので、岩城は通用口に回った。
「あれ、岩城主任!?」
警備員の常駐する保安室。
窓口から顔を出したベテラン警備員の芝沼は、素っ頓狂な声を上げた。
「おはようございます」
「またずいぶん早いですね。なにかトラブルでも?」
「いえ・・・」
わずかにはにかんで、岩城はボールペンを受け取った。
するすると出退勤表に記名する。
通常の勤務時間外に研究所に出入りする社員はすべて、保安室でチェックを受けるのがこの会社の決まりだった。
名物研究者の岩城であっても、例外はない。
「一番乗りじゃないですか」
「そうですか」
「それにしても、今朝は冷えますね」
「ええ」
会話はそこであっさり途切れた。
普段の岩城はもう少し愛想がいいのだが、今日はどうも上の空だった。
「・・・じゃあ」
岩城は軽く会釈して、保安室を離れた。
「ご苦労さまです」
芝沼はその後ろ姿を見送ってから、大きく伸びをした。
それが今朝のこと。
この日の岩城は昼食もろくに摂らず、仕事に没頭した。
年の瀬を控え、なにかと慌ただしい時期である。
あれこれ雑務も多く、電話の応対もひっきりなし。
研究レポートをまとめる手も、たびたび休めなければならない。
それでも岩城の集中力は途切れなかった。
ため息ひとつつかず、一心不乱に働き続けた。
「どうぞ」
見かねた女子社員が、岩城にコーヒーを差し出した。
ほんの一瞬、ちらりと。
岩城は顔を上げて笑顔を見せる。
「ああ、ありがとう」
「岩城主任、あの・・・」
「なに?」
「いえ、なんでも」
切れ長の涼しげな瞳。
鋭く光るその眼差しにひるみ、彼女は口をつぐんだ。
「じゃあ」
岩城はそれきり、視線をPC画面に戻した。
そこに立ち尽くす若い社員の存在など、忘れてしまったかのように。
「はい・・・」
かけようとしていた言葉を、やむなく呑み込んで。
彼女はひっそりと退出した。
「・・・あ!」
岩城が小さな声を上げた。
夕刻、窓の外はすでにとっぷりと暮れていた。
携帯電話のバイブレーション音。
いったん周囲を見渡してから、岩城はポケットを探った。
『校門を出たとこ。今から駅に向かう。一度うちに戻って着替えてから行くよ』
香藤のメールは珍しく短かった。
素っ気ないのは、彼なりの気遣いだろう。
ディナーや待ち合わせに触れれば、岩城がプレッシャーを感じるのがわかっているから。
―――大学に行っていたのか。
こんな時期に講義はないだろうから、何かサークルの用事があったのかもしれない。
岩城は素早く、脳内で所要時間を計算した。
香藤の大学の最寄り駅から今夜の待ち合わせ場所まで、多めに見積もって一時間。
香藤の足なら、もっと早いだろう。
下宿でしばらく時間をつぶすとしても、せいぜい一時間半ほどか。
―――もう、時間がない。
壁の時計を見上げて、岩城は眉をしかめた。
ディナーの予約は午後八時だ。
それより遅くはできないと、香藤が言っていた。
―――無理なんだろうか・・・?
岩城は恨めしげに、デスク上の書類の山を見つめた。
朝からかなり根をつめて片づけたつもりだが、まだ終わりは見えない。
あと二時間、いや一時間でもあれば。
『了解。後で電話する』
結局、岩城にはそれしか言えなかった。
仕事を放り出すわけにはいかない。
香藤のそばにいたい。
どちらも、岩城にはとても大事なのだ。
選べるものじゃない。
仕事は待ってくれない。
香藤は待ってくれる。
でも、心が痛む。
―――会いたい。
今すぐにでも、飛んで行けるものならば。
岩城の葛藤は尽きなかった。
(つづく)
(つづき)
+++++
「ごめんなさい・・・!」
涙がじわりと滲んだ。
か細い声が思わず震える。
深々と腰を二つに折り曲げて、岩城は謝罪の言葉を絞り出した。
「岩城さん・・・」
香藤はあっけに取られていた。
煌々と明るい照明のこぎれいなカフェ。
夜更けにもかかわらず、広いフロアは混雑していた。
きらめく街のイルミネーション。
大きな窓越しにきらきらと点滅しているのが見える。
「やめてよ、岩城さん!」
あわてて立ち上がり、香藤が岩城に手を差し伸べる。
椅子を蹴った勢いで、コーヒーが少しこぼれた。
ざわめく聖夜の店内。
周囲の客が、好奇の目を向ける。
「でも、俺・・・」
岩城の声は、ほとんど嗚咽に聞こえた。
「いいから、ね? 座って、岩城さん」
「うん、でも」
ごめんなさい、ともう一度。
吐息のように繰り返して、岩城は席についた。
白い指先は、まだ香藤の手をぎゅっと握ったまま。
「指が冷たいね」
ゆっくりと大きな手のひらで、岩城の手を包み込む。
「手袋、また忘れて来たんでしょう」
「・・・うん」
「岩城さん、顔あげて」
「香藤・・・」
ゆらゆらと揺れる黒い瞳。
睫毛がほんの少し濡れている。
年下の恋人の笑顔にぶつかり、戸惑うように首をかしげた。
「あれ?」
「なに?」
「怒ってないのか、おまえ・・・?」
おそるおそる、岩城が呟く。
「なんで怒るのさ」
香藤は笑っている。
岩城が最高に魅力的だと思う、やさしい甘い微笑。
「だって、俺は―――」
いったい何時間、恋人を待たせたのだろう。
結局、ディナーには行けなかった。
クリスマス・イブの夜。
華やかな夜の都会でひとり、香藤は待っていたのだ。
いつ来るともしれない岩城を、じっと。
―――俺はなんて酷いことをしたんだろう。
岩城は後悔で押し潰されそうだった。
行けるのか、行けないのか。
わからないのなら、香藤のために断るべきだった。
どれだけ恋人をがっかりさせようと、それでも当日、こんな残酷な待ちぼうけを食らわせるよりは数倍ましなはずだ。
―――俺が、優柔不断なばっかりに。
香藤に会いたかった。
香藤が考えてくれたクリスマス・イブの計画を知りたかった。
だから、最後まで二兎を追おうとした。
仕事も、ディナーも。
それが裏目に出たのだ。
―――いい歳して、本当に情けない。
香藤はどれだけ寂しかっただろう。
土壇場でレストランにキャンセルの電話を入れたとき、どれだけ落胆しただろう。
いつまでも来ない岩城を、どんな思いで待っていたのだろう。
想像するだけで胸が痛む。
痛くて痛くて、泣きそうだ。
「すまない・・・」
詫びて済むことではない。
そう思ったが、岩城には謝ることしかできなかった。
「ねえ、岩城さん」
しばらくして香藤が口を開いた。
いつもと同じ、穏やかな声。
岩城はついと顔を上げた。
「謝らないで。俺、うれしいよ」
「・・・なぜ・・・?」
「だって、岩城さんがここにいるから」
ぎゅっともう一度、香藤が岩城の手を握った。
熱い両手でしっかりと。
抱擁とキスの代わり。
それがなんとなく察せられて、岩城は頬を赤らめた。
「イブは無理だって、岩城さん、最初から言ってたじゃん」
「それは・・・」
「だから、今日は賭けみたいなもんだと思ってた」
「賭け?」
「うん。はずれてもしょうがない。でももし岩城さんが来てくれたら、最高にラッキー!」
「・・・」
香藤の笑顔がはじけるのを、岩城はまじまじと見つめた。
「本当に?」
「うん?」
「本当に、そんなのでいいのか・・・?」
「そんなのって」
香藤は身体を屈めて、岩城の耳元に囁いた。
「岩城さんは一生懸命、俺に会いに来てくれた。それ以上に嬉しいことなんかないよ?」
官能をくすぐる低い声。
「・・・!」
岩城は顔を真っ赤にして俯いた。
香藤は岩城に、情事を連想させる天才だ。
―――あ、手!
さっきからずっと、二人は手を握り合ったままだ。
今さらながらそれに気づき、岩城はそっと辺りを窺った。
夜のカフェの喧騒。
あからさまな視線は感じないが、男ふたりだ。
さぞかし目立っていることだろう。
「あはは、岩城さん」
それに気づいて、香藤が笑う。
いたずらっ子みたいな瞳が光る。
「あの・・・」
手を離してほしい、と。
ストレートに言うのは気が引けて、岩城はもじもじした。
「よかった、いつもの岩城さんだ」
「え?」
「急に恥ずかしくなったんだね、これ」
指先で、岩城の手の甲をツンツン。
焦って首を振る岩城を尻目に、香藤は絡めた指をほどいた。
「可愛いよ」
「また・・・!」
「じゃ、行こっか」
香藤は軽やかに立ち上がった。
くるりとマフラーを巻き、髪を整える。
それから脇に置いてあった黒っぽいコートを手に取った。
―――あ、ジャケット。
そのとき初めて、岩城は香藤の服装に気がついた。
今まで見たことのない洒落たジャケット。
微妙な光沢のあるウール地で、たぶん高級品だろう。
ゆるく結んだネクタイと細身のデニム。
足元にはぴかぴかに磨き上げられた革靴。
「・・・」
「岩城さん?」
耳のピアスもいつもとは違うようだ。
―――なんか、凄い。
岩城は呆けたように若い恋人に見入った。
全体の印象としては、カジュアルとしか言いようがない。
だが、まるでファッション雑誌から抜け出して来たように決まっていた。
―――俺は、こんな。
仕事帰りのスーツ姿の自分が、ちょっと哀しくなる。
「・・・岩城さん」
凝視する視線に戸惑った香藤が、苦笑いをこぼした。
「ねえ、岩城さんってば」
「・・・あ!」
ふと我に返って、岩城は猛然と立ち上がった。
「ご、ごめん!」
「いいんだけど―――」
岩城の隣りに並んで、香藤はそっと囁いた。
「そういう目で見られると、俺、勃っちゃうから」
「・・・!!」
恋人の腕がゆるゆると、岩城の背を撫でる。
「可愛すぎだよ、岩城さん」
「あ・・・」
ぞくりと、肌が粟立つ感覚。
岩城はびくびくしながら、香藤を見つめた。
「あの」
「行こうか、岩城さん」
「どこに?」
「いいから、ついて来て」
香藤はやさしい。
香藤はかっこいい。
香藤は誰よりも、岩城を大事にしてくれる。
―――好き。
岩城はおずおずと頷いた。
2013年12月25日
つづく・・・はず(笑)。
お粗末さまでした。
お気に召したら幸いです(コメント歓迎!)。
●では、
また。。。