●こんな
夜中に、大雨警報とか。
いやすぎる。
※東京、千葉、埼玉。

何事もないといいのですが。
●最近の本
本は相変わらず、いろいろ雑多に読んでいます。
再読も多い。
が、なかなか
レビューを書くところまで行かないなあ。
全部きちんと記録しようと思うこともあるけど、無理っぽいですね。
時間がないか、そこまでのモティヴェーションがないか。
そういう感じです。
☆
「水魑(みづち)の如き沈むもの」
三津田信三講談社文庫
大ざっぱないい方をすれば、
三津田信三は現代の横溝正史。
(いや、それだけじゃないけど。)
このシリーズの探偵役=刀城言耶(とうじょうげんや)はさしずめ、現代の金田一耕助か。
(いや、言耶の職業は怪奇幻想作家であり、全国を旅して怪異譚の蒐集をしてるわけですが。)
乱暴な紹介ではあるけど、だいたいこんなところじゃないかと思います。
当たらずといえども遠からず。
三津田さんには、純粋なホラー小説も多い。
そういうの、好きな人は死ぬほど好きだものね。
ちなみにわたしはホラーは好みではない(笑)。
理屈の通らないひたすら怖い話だけ・・・には、あまり魅かれないタチです。
おどろおどろと不気味で、因縁だの因習だの、タタリだの呪いだの。
忌み山だの、憑き物だの、ここで声をかけられても決して振り向いてはいけない、だの。
そういうのだけなら、のーさんきゅう。
ただね、そういうホラー要素に埋もれた謎だの、確執だの、因縁だの。
そこから起きる怨恨だの、殺意だの、不可能犯罪だの。
そしてそれを合理的に、現代人の(だいたい)納得できるかたちで解決してくれるお話(=
ミステリ)。
となると、途端に大好物になります(笑)。
どうしてだろうね?(笑)
「そんなん、似たようなもんじゃん!」
って人もいると思いますが、わたしにとってはえらい違いなのです。
結局、謎解きが楽しいんでしょうね。
どんなに怪奇浪漫的に見えても、さいごには現実的な答えが見つかる。
どれほど気味の悪い事件でも、死霊や蛇神さまのタタリではなくて、人間の仕組んだ犯罪である。
その謎が解かれるプロセスが楽しくて、また、ほっとするんでしょうね。
というわけで、さて。
わりと最近読んだのが 「水魑(みづち)の如き沈むもの」 です。
刀城言耶シリーズの長編では、5本目。
本格
ミステリ大賞の受賞作で、「この
ミステリーがすごい!」での評価も高かった。
“ホラーと
ミステリーの見事な融合”
ってのが、このシリーズの売り。
そらもう、大いに期待して読みはじめました。
※以下、ネタバレはないけど若干は小説の内容に触れています。・・・が、あれれ。
「んん???」
実際に蓋を開けてみると、どうも勝手が違う。
いや、たしかに悪くないんだ。
期待通りの設定だし(ある意味では予定調和)、おどろおどろした因習もばっちり。
水魑(みづち)という謎の神様もおもしろい。
怪しげな登場人物もたっぷりで、しよく出来ていると思う。
思うけど、どこか薄い。
なんだろう、どこか邪悪さが足りない(笑)。
ライト感覚なのです。
さらさら読みやすいけど(いつもの)中毒性はない、とでもいえばいいのか。
うーん?
なんだろうね???
濃厚な民俗学的ワールドに没頭できない、そんな感じ。
自分なりに、その理由を考えてみました。
ひとつめ。
「厭魅(まじもの)」「首無(くびなし)」「山魔(やまんま)」にあるような、圧倒的な怖さ=ホラー要素が薄い。
※上記はいずれも同シリーズの先行作品。
得体のしれない薄気味悪さ。
いつ何が誰に起こるか、まるで見当のつかない不気味さ。
同じ日本、おなじ昭和(戦後まもなく)なのに、こんな場所に紛れ込んでしまったら怖すぎる。
そう思わせる邪悪な空気を、そこまで感じない。
常識ではあり得ない設定と、もっとあり得ない(極端な)人物造形。
・・・にもかかわらず(笑)、そういう世界が日本のどこかにあるのだと思わせる。
圧倒的なパワーとディテールで、積み重ねられる怪異譚で、読者をねじ伏せて納得させてしまう。
このシリーズの強みはそこなんだけど、今回そこがやや欠ける。
そうとしか思えません。
たとえば「厭魅(まじもの)の如き憑くもの」には、まじもの、カカシ様、ナガボウズ。
山神様、ナガナワ、生霊、その他もろもろ。
何種類も、何重にも怖くて正体不明の、その土地に根差した怪異があった。
その地名の由来から、登場人物の名前に至るまで、あらゆるところに歴史と謎と怪異がひそんでいた。
文句なしに怖かった。
要するにアレです。
「こわいよー、夜中にトイレに行けなくなるよ!」
的な、昔ながらの怪談としての薄気味悪さがあった。
正体の知れない邪悪な何か。
人間を襲う何か。
そういう過剰なまでの怖いナニかが、水魑(ミヅチ)にはない。
山の奥の大きな池にひそむ何か。
ときに大雨で田畑を流し、ときに旱魃で村人を困らせる何か。
―――うん、こわいよ。
たしかに怖い。
でもそれは、既存の(この場合は龍神様みたいな)神様に似てる。
ありえない、考えられないほど異様な、底知れない悪意とはほど遠い。
呪われた村を覆う大いなる悪しき影・・・のような存在であるはずなのに、怖さが足りない。
どこか、弱い。
そう思ってしまったよ。
ふたつめ。
リアリティとの兼ね合い。
個人的には、こっちのほうが致命傷かもしれない。
上記のとおり、三津田ワールドは昭和の前半が舞台です。
戦後まもなく、おそらく昭和20年代後半くらい。
都市部からとおく隔絶された超田舎の山村であり、独特の因習バリバリ。
人々は信心深く・・・というより、かなり迷信深い。
神社の宮司が祭祀を取り仕切るばかりか、ほぼ村を仕切っているような状態。
・・・という前提条件をもってしても、アレだよ。
それでも現代であり、日本のどこかなのです。
そうであれば、変事が起こりひとが異常な死を遂げれば、当然ながら警察が呼ばれるはず。
警察に介入されたくない心理が村サイドにあったとしても、そこには限界があるはず。
でもねえ。
このお話には、警察の介入を頑なに拒否する長老が登場します。
彼の理屈は(屁理屈だけど)わかるから、それ自体はいいのよ。
そういう頑固な、自分勝手な、前時代的な老人がいてもいい。
でも、彼の脅しの手段がヒドイ。
(もし警察に知らせたら、○○がどうなってもいいのか・・・知らんぞ? 的なやつね。)
お粗末なまでにヒドイし、それに屈してしまう周囲(刀城言耶含む)の言動もひどい。
「いや、そこは強行突破でしょう?」
「いや、オマエか警察に行って説明しろよ」
ツッコミどころが多すぎて、クライマックスなのに冷めてしまう・・・(汗)。
「いや、それはないよ・・・」
どうしても警察を排除するなら、別の方法を考えるべきだったと思う。
もうちょっとリアリティのあるやり方。
「警察が来られない」
都合のいい設定なんか、いくらでも考えられる訳です。
ミステリ書きには有名な、「吹雪の山荘」的な、ね。
(交通も連絡手段も寸断され、犯人も被害者も探偵役もみんな同じ館に閉じ込められる・・・的なストーリーは、
ミステリ書きが一度はつかう設定だと思う。)
みっつめ。
はっきり言おう。
このシリーズのほぼ唯一の弱点は、常連キャラにあまり魅力がないこと。
―――なのです(爆)。
個人的な評価ですけど、もちろん。
ミステリなんだからこの程度でいい、という意見もあるでしょう。
だけど、ミステリ=人物造形が未熟、というのはあまりにも早計です。
(宮部みゆきや高村薫を例に出すまでもなく、緻密な人物描写を得意にするミステリ作家もいくらでもいる。)
でも、残念ながら、
刀城言耶シリーズはそうではない。
のよね・・・(汗)。
探偵役の刀城ですら、実はキャラが十分に定まっていない。
人格の重層的な肉付けもあまりない。
彼には変なクセがあって、たしかに特徴的なんだけど、そこもあまり魅力的ではない。
とはいえ彼は、狂言回しとして優秀なのです。
基本的には腰は低いので、読者の反発を買うタイプでもない。
だから「問題はない」、というのがわたしの認識です。
(主人公がイヤなやつだったら、小説を読むの自体がイヤになりますから。)
不幸にもこの作品は、二人のレギュラーの会話から始まる。
阿武隈川烏(あぶくまがわからす、刀城の先輩)と祖父江偲(そぶえしの、編集者)。
シリーズのレギュラーキャラです。
この二人が刀城と、水魑の話をするのが第一章。
それが問題・・・だと、わたしは感じました。
三津田さんは彼らを好きみたいだから、申し訳ないけど(汗)。
この二人に人間的魅力があればね、きっと楽しいんだと思う。
個性はある。
ありすぎるほどある(笑)。
ただ、二人とも人物造形にリアリティがなく非常に一面的です。
好人物でもない。
上辺だけのキャラづけしかされていないため、第一章のもたつきが半端なかった。
文章がヘタなわけではないから、読みづらい、というのは変かもしれない。
でもね、早く終わらないかと、ひそかにイライラしたのは事実です(汗)。
以上、書き殴りでした。
あーあ、文句ばかりですね。
イヤなところばかり強調して書きましたが、私はこの作者のファンなのです。
この人の編み出す独特の世界観。
異様な雰囲気、ホラー要素に満ちた本格ミステリ。
そこが好きで、シリーズもずっと追いかけている。
それだけに今回は、かなり肩透かしを食らった気分でした。
ホラー好きじゃないくせに、ホラー度が足りないとか思っちゃうし(笑)。
しっかし、おかしいなあ。
なんでこれが彼の最高傑作とか呼ばれるんでしょう。
謎である。
それともわたしは、何か盛大な読み落としをしてるんだろうか。
皮肉にも・・・というべきか。
この小説でいちばん興味を引かれたのは、とある主人公家族の引き上げ話でした。
終戦後、満州からの決死の引き揚げね。
悲惨といえばあまりに悲惨なのですが、そこには情と知がたっぷりあった。
重いにもかかわらず、吸いこまれるように読めた。
本筋とは直接の関係がない、あくまで設定部分なんですけどね。
ちなみに>>
口直しに今、「厭魅(まじもの)の如き憑くもの」を読み返しています。
シリーズ第一作。
何度も読み返しているから、さすがにミステリとしての驚きはない。
ないけど、異世界を覗き込んでいるようなぞわぞわ感は濃厚です。
むしろ落ち着いて読めるせいか(犯人あてをしなくていいからね)、細部に目が行く。
ディテールまで凝りに凝って、これでもか、と怪異譚を詰め込んでいるのがわかる。
解決する謎と、解決しない謎。
(前者がミステリ要素で、後者はつまり怪談ですね。)
どっちも怖い。
素直に好感のもてる(非レギュラー)登場人物が多いのもミソ。
これが最高傑作なんじゃなかろうか、と。
あらためて感じつつあります。
●では、
またね。。。