35回目のお誕生日

書きかけ、かも・・・(苦笑)。







「恋って、どうやって終わらせるんだっけ―――」

香藤の唐突な言葉に、俺はぎょっとして振り返った。

久しぶりに二人とも早く帰宅した、六月の夜。

素麺と冷しゃぶで、ごく簡単に済ませた夕食の後のことだった。

切子のビアグラスを食器棚に片づけていた香藤が、さらりと問いかけた言葉に、俺は絶句する。

リビングのソファで、新聞を広げようとしていた手が思わず止まった。

「なにを―――」

「・・・ってさー。いきなりそんなこと聞かれても、答えらんないよねー」

屈託のない口調。

「だいたいこの俺に、恋愛相談なんてしてくるほうが間違ってるよ。ハッピーラブラブ既婚者に、普通そんな話題、振らないでしょー。そう思わない?」

誰かに言われた言葉を、引用しただけだったのか。

「・・・なんだ」

「えー?」

「なんでもない」

安堵の吐息をつきかけてから、俺はあらためて、ひそかにキッチンを振り返った。

髪を後ろでひとつにまとめた、普段着の香藤。

かいがいしく家事をするその見慣れた姿を、俺は目で追った。

ノースリーブのシャツから伸びた腕についた筋肉の、力強い躍動感。

細身のデニムに包まれた下肢はしなやかだが、鋼のような堅さを秘めている。

それから、まっすぐな情熱。

強靭な意志と、あたたかい心。

―――惚れ惚れするほど、魅力的な男。

毎日いちばん傍でそれを見つめ、常に触れていても、永遠にその存在に馴れることはないだろうと思う。

「それは・・・」

香藤に、恋愛の相談を持ちかけた女性。

誰なのか見当もつかないが、それが若い女性であることを、俺は疑わなかった。

―――そして、もしかしたら。

単に親しいというだけでなく、香藤が昔つきあっていた女性かもしれない、ということも。

「ねえ、岩城さん?」

「・・・うわ!」

突然、目の前に香藤の顔があった。

不思議そうに瞬く茶色の瞳。

まじまじと覗き込まれて、俺は思わず声を上げた。

「こら、香藤・・・っ」

「そんなにびっくりしなくても」

苦笑して、香藤が俺の隣りに腰を下ろした。

「なにを考えてたの?」

いつもそうするように、するりと俺の腰に腕を廻して、甘えるように鼻先を俺のうなじに擦りつける。

「いや、別に・・・」

ほんのわずかに上擦った俺の声を、敏感に聞きとがめて。

「んー?」

半ばからかうように、香藤は俺を抱き寄せた。

「どしたの。なーんか、変なこと考えてるね?」

「変なことって・・・」

「ほら、そうやってごまかそうとする」

拗ねた子供をあやすような甘い声で、香藤が笑いかけた。

「誤魔化してなんか―――」

「いないって? ウソばっかり」

温かい指先が、俺の頬を撫でる。

心地よさに思わず目を閉じかけると、香藤が耳元で囁いた。

「もしかしてさっきの、気にしてるの?」

俺は首を横に振って、香藤の瞳を見返した。

「・・・それは・・・」

「フツーの仲間だよ。ただの共演者。それだけ」

―――そんなに簡単に、俺の心を読むな。

苦笑でほころんだ俺の唇に、香藤の親指が触れた。

「ん・・・」

無理にこじ開けるでもなく、焦らすように、指がなめらかに俺の下唇を滑っていく。

ちょん、と舌先で舐めると、香藤の含み笑いが聞こえた。

「・・・バカ」

ただの共演者じゃ、ないんだろうな。

心のどこかでそう感じたが、もうどうでもいいことだった。

「キスしてほしい?」

吐息まじりにそう問われて、俺は黙って頷いた。

香藤に疚しいことがないのは、他の誰よりも俺がよく知っている。

過去に何かあったのかもしれないし、なかったのかもしれない。

否定はやさしい嘘かもしれないし、そうではないかもしれない。

嘘だとしたら、それは俺のためだ。

―――結局どっちでもいいんだ、俺は。

逞しい腕に抱擁されながら、俺はひそかに苦笑した。

どうでもいいなら、何があっても香藤を信じるのなら、最初から反応しなければいいのに。

いい加減、そのくらい気を回せるようになりたいが、不器用な俺には難しい。

「岩城さん・・・」

甘い声で呼ばれて、俺はそっと頷いた。









2010年6月9日

香藤くん、お誕生日おめでとうございます!

ましゅまろんどん


【09/06/2010 22:09】 春を抱いていた | Comments (0)
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プロフィール

藤乃めい

Author:藤乃めい
ロンドン在住の自称☆ヘタレ甘々ほもえろ字書き(兼エッセイ&レビュー書き)。別名=ましゅまろんどん。

2008年秋より、出向で六本木に島流し中。

純愛☆官能大河ドラマ『春を抱いていた』をこよなく、果てしなく愛してます(笑)。岩城さん至上主義。寝ても醒めても岩城京介氏のことしか考えられず、日常生活に支障が出ることもしばしば(爆)。・・・いや、マジで。

常に人生破綻の危機に怯えつつ、今日も愛の溢れる純文学☆ほもえろ道の探求に精進してます(笑)。

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